RE/PORT PROJECT

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職人の技術と最先端の技術が作り出す、魚の未来 -青森県三沢市-

青森県、三沢。
青森県東部に位置し、在日米軍三沢基地があり、多様な文化が流れ込む港町。
昼イカ、ホッキ貝、天然ひらめ、秋鮭、の特産品を中心とした海産物の宝庫であり、毎年8月末に催される「みさわ港まつり」には約5万人もの人出で賑わうという。

そんな三沢も例に漏れず、過疎のあおりを受けている。
今までのやり方を変えないと水産業を支えていけない。そんな状況をなんとか打破しようと動いている人物がいる。
三沢市漁業協同組合 高橋さんだ。

いかに魚価をあげて、漁師の収入を増やし、次世代の水産業の担い手を作るか。
その思いで、高鮮度技術によりで魚価をあげることが可能なシャーベットアイス、SIS-HFの導入を決断した。
SIS-HFとは?

高橋さんにSISを使って、どのように変革をもたらそうとしているのか、お話を伺った。

当初どういった課題を抱えてらっしゃったか教えてください。

いかに魚を高く売って、漁師に還元するか。実現の第一歩として、まずは大日本水産会認定の高度衛生市場を目指すことにしました。そのためには老朽化している設備をまるっと入れ替える必要があり、せっかく入れ替えるのであれば、魚価を上げることができるようなそういう最先端の設備を導入したいそう思いました。

そもそも、今まで使っていたどぶ漬での魚の冷やし込みにはかねてから非常に不満がありました。どぶ氷は氷が浮いてくるので、時間が経てば経つほど、下の方が全く冷えなくなります。せっかくいい魚が獲れて送ろうとしても、下の方から腐って半分ダメになってしまうんです。

三沢というところは近くに加工工場や運送会社がない場所です。そのため自分たちで運ばないといけないのですが、その運んでいる間に鮮度が落ちて、美味しくなくなってしまう。
美味しくなくなってしまうだけならまだしも、半分腐って出すことができないこともあります。その辺りはわかりやすく、クレームで跳ね返ってくるんです。

その辺りを改善したいと思っていました。

SIS導入によって変わった点について教えてください。

シャーベットアイスだから一見、角氷よりも溶けやすいかと思いがちなのですが、むしろ逆で均一に全てが冷やされているので、氷の持ちが良かったのにまず驚きました。

鮮度が保たれることで、関東への輸送も安心して行うことができるようになり、銀座の高級寿司店さんへ直接卸しているのですが、そこからも大変好評価をいただいております。

三沢の魚は物が良いから「ブランド化していったらいいんじゃないか」といった声もいただくようになって、喜んで買ってくださいます。

氷が変わるだけで、魚そのものの評価が変わるんですね。

実は氷だけじゃダメなんです。揚がった魚を締めて、届ける前に血抜きをすることが大切で、締めて冷やしこむことで、高鮮度を実現することが可能になります。

うちの港では「神経締め」をやっているのですが、神経締めもやり方がたくさんあるので、ベストなやり方を色々な人にお話を伺って勉強しました。
魚体を傷つけずに、綺麗に血を抜いて身の硬直を防ぐ。正しい神経締めをして血抜きをすることで、鮮度を保ったままお届けすることができます。

一尾あたり3分程度かかることもありますが、全て丁寧に神経締めをして、シャーベットアイスに入れてお届けしています。
私たちの技術と最先端の技術が合わさって初めて高鮮度化が実現するんです。どちらかだけでもダメなんです。その地道な努力が次第に結果につながっているのかなと思っています。

鮮度が上がることで、魚価も実際に上がっていっているのでしょうか?

こうして取り組み自体をスタートさせましたが、まだ浜の値段には反映されていません。
というのも、直接卸しているお店には高評価をいただいているのですが、仲卸の人に「三沢の魚は良い」という認識を持ってもらって、高く買ってもらわないと浜の値段は上がっていきません。
豊洲の卸がこれから三沢の魚を認めてくれるかどうかだと思っています。

直接卸しているところからは一定の評価があるけれど、仲卸人にはまだ伝わり切っていないということでしょうか?

そうです。浜の市場へ行った時に言われたのが「宣伝して売れ」ということでした。三沢の魚がどう扱われて、どう運ばれてきているかというのが現在の売り方では伝らないので。

あとは、一度豊洲の中に入ってしまうと全国各地の様々な港から魚が集まっているので、これが三沢の魚だ!ということがまず分かってもらい辛いという課題があります。
そこをこれからどう変えていくかですね。

こうして三沢の魚のいいところをもっと発信したり、卸しの段階でわかりやすく伝えるような見せ方の工夫をして、良い魚であることを広めていきたいと思っています。

今まさにこうして先進的に活動されていらっしゃると思いますが、この他に課題として抱えていらっしゃることはありますか?

どこの港も同じかもしれませんが、一番大きいのは漁業の後継者がいないという問題です。漁師がいなくなるという事は私達、漁協の仕事がなくなるということです。魚の値段が高騰しない限り、魅力的な収入にならないので、後継者の育成はなかなか難しい状況にあリます。そのために、しっかりと魚の値段を上げていって、漁業って儲かるんだという仕組みをきちんと作っていくことが大事だと思っています。

シャーベットアイスのプロジェクト以外に、魚の値段を上げていくにあたってどの様な取り組みをされていますか?

もう獲って終わりの時代は終わったと思っています。漁師も漁協も、獲った魚をどう売るか、いつ売るか、どう届けるか、売り方・届け方まで考えて、「漁」ではなく「漁ビジネス」をしないと、厳しい時代です。

わかりやすく説明します。
詮索技術が発達し、誰でも魚をたくさん取ることが以前より容易になり、漁獲量がそれぞれの船で平均化された。一方で、外国の大型船がすぐ近くで大規模な漁をしている。均一化されて減っている日本の漁師の漁獲量が、外国船の影響でさらに減る。外国船がマーケットに大量に卸すため、市場には魚が溢れている。少量卸しただけでは、儲けにならない。でもたくさん獲れない。
この循環です。

このサイクルにおいて、「たくさん獲ればいい」というかつての漁業の論理は破綻を迎えています。そのために「漁」から「漁ビジネス」への転換が求められていると思うんです。

量の勝負ではなく、いかにタイミングを見て高く売るか。
私は、これからは養殖の時代だと思っています。

シンプルに魚をストックし、魚が獲れない時期に売ることで、高く売ることができますよね。台風などの時化のタイミングなど、青物がキロ1000円から5000円になるんです。養殖までいかなくとも、活魚槽を使って獲った魚を生かしておいて、タイミングを見て売るだけでも良い。
いま、新しく魚を長く生かしておくことができる活魚槽の取り組みを始めようとしています。

まだまだ漁業、水産業でやれることはたくさんあると思っているので、毎日忙しいですがこれからも未来を作っていくために、頑張っていきたいと思います。