RE/PORT PROJECT

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“日本の常識”を海外から覆したい -沖縄県国頭郡-

沖縄県、国頭村。
総面積の8割以上を森林が占め、人の手が入っていないとにかく青い海が一面に広がる大自然に囲まれたこの村の港では、沖縄らしい青緑色、黄色、ピンクといった極彩色の様々な魚が日々揚がる。

そんな沖縄県最北部の国頭漁協の特有の魚の美味しさを、世界に届けたいと海外へ輸出している会社がある。
沖縄本島南部糸満に拠点を構える株式会社萌す(きざす)だ。


元は自身も県外からの移住者だという株式会社萌すの代表取締役の後藤さんに、世界へ進出していく沖縄の魚について、お話を伺った。

沖縄の魚でビジネスしようと思ったきっかけを教えてください。

皆さんは「沖縄の魚」と聞くとどう思いますか?「観るもの」っていう印象で、食べようなんて思わないですよね。そこにそもそも課題がありました。

僕は実は県外から移住してきて、観光業に従事していたのですが、その際に漁師さんや水産業をやられている方とお話をすると、皆さん「沖縄の魚は美味しんだよ」って言うんです。あのカラフルな魚がですよ。(笑)

そんな声をたくさん聞いている中で、石垣牛やアグー豚がブランドになってきているように、沖縄の魚でビジネスをしたら面白いんじゃないかと思ったのが、そもそもの起業のきっかけです。

沖縄の魚って美味しいんですか?

魚の味自体は、実際に美味しいです。見た目は特徴的ですが、味は非常に美味しい。

ではその美味しさをどう伝えるかという話になったのですが、そもそも日本では、魚は北へ行けば行くほど脂が乗っておいしいとされていますよね。

北海道と沖縄だったら、北海道の魚の方が美味しそうと思いませんか?
そこのイメージを覆すことは簡単ではないし、実際にチャレンジしても「沖縄の魚でしょ?」と豊洲の人に鼻で笑われてしまう。

ではどう売ろうか。そうなった時に、その論理を逆手にとってさらに南に目を向けたんです。沖縄は日本では南ですが、アジアでいうとかなり北に位置してます。同じように北の魚は美味しいという印象がアジアにあるのならば、日本ではなく海外に沖縄の魚を売り込めばいいと思い、海外輸出を始めました。

海外の人に対して、どう沖縄の魚の美味しさを伝えたのでしょうか。

漁師も皆「俺の魚は美味しい」っておっしゃるのですが、それが「感覚」の話でしかない。ただでさえ言語が違う海外の方に「沖縄の魚は美味しい」と認識してもらわないといけない中で、「感覚」は全く通じません。それを「可視化」する必要がありました。

そうして目に見える形で美味しさを伝える仕組みづくりが必要になった時に、SIS-HFに出会ったんです。
シャーベットアイスの技術によって、輸送しても締めた魚の味が落ちない。また、それが落ちていないことを数値(K値)で証明できると聞き、これで海外に美味しさを伝えることができると思いました。

実際にSISを導入されてからはどのような変化がありましたか?

SISチームと一緒に検証と実験を重ね、まずは、美味しさ=鮮度が保たれていることを数値化して証明することに取り組みました。実際に現地に赴いて、鮮度を計測して資料にまとめ、バイヤーに伝えていく作業です。

質問の大きな変化ですが、その作業を通じて「感覚」を「可視化」したことで、国頭の魚がシンガポールでミシュランをとったのアッパー層のレストランなどに入り始めたんです。これが一番の大きな変化だと思います。

また、沖縄で獲れる魚は日本では珍しいものでも、アジア圏ではポピュラーな魚が多くあります。
インドネシアやマレーシアで普段食べられているものと同じ魚種を出荷する場合、普段食べている魚がより冷えた海から届くことで、身の締まりが良くて美味しい。なので、同じ魚でも3倍4倍の値段で売ることができています。これも大きいですね。

そしてこれは、国頭からシンガポールまでは約30時間の輸送の間、温度上昇がなく、きっちり冷やし込みがされているというSISの技術があってこそ成り立つものです。

ベースにSISの冷やし込みの技術があり、その技術を元に検証を重ね、数値化し蓋然性を高めて、説得し販路を広げていく。
その繋がりが、結果として魚価を上げ、漁協に還元することを可能にしてくれています。

「可視化」にあたって、実際どういった検証をされていますか。

どういった形で魚を締めたら美味しくなるか、どのタイミングで処理を行うと腐敗のスピードが早まるのか、魚種による適切な氷の温度の検証、氷の塩分量の検証などの測定をしています。

また、付加価格をつけるため、価値を裏付けるために、レストランに到着してからのロスにも目を向けた取り組みを行っています。例えば出荷の際にシャーベットアイスを150%の量入れるとすると重量が増えることで輸送費は当然上がってしまうのですが、その分だけお店に入ってからの持ちが変わってきます。

飲食店は日によってメニューの出数が変わるので、売上予測を踏まえた上で、適切な氷の量を試算し、鮮度を保ったまま数日店舗ストックができるような価格提案をしています。「日持ちもするからこの値段なんです」という価格の裏付けを元にした、付加価値提案を行って、魚価を上げるように努めています。
これもSISの冷やし込み技術があってこそですね。

今後の事業展望について教えてください。

国頭の魚が海外のレストランでメニュー化されてしっかり根付いてきつつあるので、逆に東京や日本の他の地域において海外では沖縄の魚がミシュランを取ったレストランでこの値段で使われているんですというのを示して、良い意味での価格破壊を日本側に起こしたいと思っています。逆輸入ですね。

また、早くこのSIS-HFを導入した拠点を他にも作っていかないといけないとも思っています。せっかく良い評価をいただける様になって、これから値段を上げて行こうという段階で、沖縄の魚って品質がバラバラだよねという印象を持たれてしまうとブランディングができなくなってきてしまうので、沖縄全土でしっかり安定させた品質のものを供給できる仕組みづくりをしていきたいです。